[本]香山リカ『〈私〉の愛国心』(ISBN:4480061851) 広井良典『脱「ア」入欧』(ISBN:4757140711)

どちらもアメリカ批判の本であるという点では共通しているが、内容は雲泥の差があった。元々ぼくは香山リカのよい読者ではなく、今回もあまり期待せずに読んだのだが、ご都合主義的な事例の引き方と強引な論理展開――それがこの人の「持ち味」でもあるが――がいつにもまして目立ち、読み進めるのがつらかった。アメリカは「境界例」で日本は「解離性障害」との「診断」も、これでは「分析」というより相手を非難(批判ではない)するためのレトリックとして使われているにすぎない。批判的言説がいつのまにか批判対象の語り口に似てしまうという典型。
広井良典の著作はずっと共感的に読んできたが、この新刊も分析と批判そしてオルタナティヴの提示と、バランスのとれた好著である。タイトルの「ア」とは「アメリカ」のこと。そこには、冷戦構造が崩壊したいま、日本は純粋資本主義社会であるアメリカではなく、福祉国家的資本主義であるヨーロッパ(とくに北欧)をモデルにせよとのメッセージが込められている。ラディカルな左派は、こうした社会民主主義的路線を折衷的で資本主義を延命させることにしかならないと批判してきた。しかし、社会主義のプロジェクトが潰えたいま、アメリカ型純粋資本主義に対抗しうるカウンターパートは、経済成長を指向することなく「豊かさ」が享受できる「定常型社会」しかないように思える。広井氏のアメリカ留学体験をもとにエッセイ風に書かれた第2部も、随所に刺戟的な考察が光る。