広田照幸『教育』ほか

電車のなかで広田照幸『教育』(ISBN:4000270079)を読む。岩波の「シリーズ思考のフロンティア」の一冊なのでコンパクトな本なのだが、なかなか読み応えのあるものであった。教育がもつ社会化/配分という機能に、個人化/グローバル化というパースペクティヴを重ね合わせることで現代の教育が直面する問題を摘出し、ネオリベラル的教育改革路線への対抗軸を探るといった内容。理論的には前に紹介したベックの個人化論(http://d.hatena.ne.jp/bibleblack/20040521#p1)が議論の下敷きになっているが、個人化論はヘタすると一切を個人による選択の結果と見なすことで、格差の拡大を是認するイデオロギーとして作用する危険性を秘めている。カウンターパートとして持ち出される、「経済成長によってではなく、財や配分格差を小さくすることで〈生〉の安定を保障する社会」および、こうした社会において教育が果たすべき機能は、いまだラフスケッチにとどまるとはいえ共感できるヴィジョンである。

帰りにパオロ・マッツァリー『反社会学講座』(ISBN:4872574605)と仲俣暁生『ポスト・ムラカミの日本文学』(ISBN:4255001618)を買う。前者は「はてな」でもいろいろな方が紹介しているようだが(たとえばhttp://diary.hatena.ne.jp/dice-x/20040628)、たしかに学部生に読ませるにはもってこいだ。後者は仲俣氏のブログページ(http://d.hatena.ne.jp/solar/20040704#p1)で知った。前から仲俣氏の書評を読んでいてぼくと好みが似てるなと感じていたのだが、この本の巻末に付いているブックガイドを見てさらにその意を強くする。未読の小説もいくつかあるので(とくに最近のもの)、この夏休みに読んでみよう。